トノコ塗りは職人のセンス
どんなに品物が良くても色が汚かったら嫌ですよね。
トノコを塗る刷毛(ハケ)の使い方一つで仕上がりが違う繊細なものです。
よくわかってない人に塗らせるとビチャビチャになってムラだらけになってしまいます。
職人は塗る面積を見て必要なだけハケにしみこませて塗り残しがないように木目の中にトノコを入れるようにさっと塗って、ハケにしみ込んだ余計なトノコを絞り取り、ムラがないように木目に沿ってハケを引く(キメる)んですね。
長くトノコ塗りをしていると、このハケの先端が自分の指先のように感じることが出来ます。今どのくらいハケの先が当たっているのかわかるのでハケ先に強弱をつけることが出来るわけです。
ある程度のことは教えることは出来ますが、教わったことを自分の物にするにはそれなりの時間が必要となります。
すべては経験則から感覚がすべてです。
そしてその感覚と言うのは職人それぞれですから、良い色を出すのも良くない色を出すのも職人しだいってことになります。
感覚は塗る時だけじゃない
トノコ塗りが上手なだけでは良い色はでない。
もちろん塗りが良い色を出す条件の一つだと思いますがそれだけでは不十分。
何が必要かと言いますと、タンスを乾かす時の気温と湿度です。
気温と湿度の違いで同じ配合の色がまったく別の仕上がりになってしまいます。
この業界で仕事をしていると「良い色を出すには出来るだけ湿度を無くすことだ」そんなことを言う人がいます。
トノコ塗りをちょっとかじった人に多く見られます。
桐たんすのことで湿気と聞くと普通の人は良いイメージがありません。それは、カビの原因だったり、材が腐ってしまう、そんなイメージからではないでしょうか?
湿気の多い日にトノコを塗るとジトジトしていて色も中々乾かない、結果ぼやけた色になってしまう。
結果、湿気はないにこしたことはない。
私もある意味正解だとは思いますが、一つ覚えでその考えだけで塗りをしていると良い色が出ないと迷宮に迷い込むことがあると思います。
食べ物で例えると、人間の体には糖分が必要ですよね。ですが多量に摂取しすぎると害があります。
それと同じで物事にはバランスがあると私は考えます。
多すぎてもダメ、少なすぎてもダメ。
例えば、
梅雨から夏にかけては、気温は高いが湿気は多い
・この状態でしたら十分な温度はあるので問題はなく、どうやって湿気を取り除くかを考える。
秋から冬にかけては、気温は低くく湿気も少ない(乾燥時期)
・この状態ですと、低い温度を高くして、どうやって湿気を作りだすかを考える。
特に冬は桐たんすは良い色を出すのが難しいと言われています。
温度が低いことが原因というのは分かり易いのですが、湿気が少なすぎるとは考える人は少ない。
なので温度ばかり上げることを考えてしまう職人さんもいます。
それの何がいけないかというと、それだと色の深みが絶対に出ません。
その深みはある一定の時間をかけゆっくり乾いていくことで生まれるからです。
温度の上昇ばかりに気を取られてしまうと、塗った箪笥はあっという間に乾いてしまい木目もパリパリした感じの上っ面だけの感じになってしまいがちです。
人間の場合のスキンケアだって夏場と冬場で違いますよね。
冬は肌はカサカサ、夏は毛穴に汚れが溜まりがち。
桐たんすの色塗りだって同じで冬場の肌カサカサの時期はある程度の湿気が必要なのです。